予備的遺言とは

予備的遺言について

 予備的遺言とは、遺言者が指定した相続人や受遺者が、遺言書で指定された遺産を相続できなくなった場合に備えて、その代わりに別の人に相続させることを指示する遺言です。いわば、「予備」や「次の手段」として指定しておくものです。

この予備的遺言は、特に以下のような状況を想定して行われます。

1. 指定した相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合

 例えば、遺言書に「Xに財産を相続させる」と書いていたが、Xが遺言者よりも先に亡くなっていた場合、Xに相続させることはできません。この場合に備えて「Xが死亡していた場合は、Yに相続させる」という内容を予備的に遺言に含めておくことができます。

2. 指定された相続人や受遺者が相続を放棄した場合

 相続人や受遺者が相続を辞退(相続放棄)する可能性もあります。この場合に備えて、予備的に別の人に遺産を相続させる指示をすることができます。

3. 指定された人が相続欠格・排除される場合

 相続欠格事由(法的な理由により相続権を失う)や、遺言者が特定の相続人を相続から排除した場合、予備的遺言により代わりの相続人や受遺者を指定しておくことができます。

予備的遺言のメリット

  • 柔軟性が高い: 指定された相続人や受遺者が相続できなくなった場合でも、スムーズに次の受遺者が決まるため、遺産分割をめぐるトラブルを防ぐことができます。
  • 相続手続きが迅速化: 予備的遺言があると、相続できない状況が発生しても、新たな遺言を作成する必要がなく、すぐに次の人に相続させることができます。

予備的遺言の例

「私の全財産を息子Xに相続させる。万が一、息子Xが相続できない場合は、娘Yに相続させる。」

 このように、予備的遺言を作成しておくことで、予測不能な状況にも対応し、遺言者の意思が最大限尊重される形で相続手続きが進むことが期待できます。

予備的遺言の作成での注意

 予備的遺言を作成する際には、いくつかの注意点を理解しておくことが重要です。以下に、予備的遺言を作成する際の主な注意点を挙げます。

1. 予備的遺言を明確に記載する

 予備的遺言を作成する際には、誰が「最初の相続人」であり、その人が相続できない場合に「誰が予備的相続人」になるのかを明確に記載する必要があります。あいまいな表現を使うと、後々の解釈で争いが生じる可能性があります。

  • 例:「息子Aに相続させる。もし息子Aが相続できない場合は、娘Bに相続させる。」
  • 曖昧な表現を避ける:予備的相続人が複数人いる場合や、特定の条件下で異なる相続人を指定する場合は、それぞれの条件と相続人を詳細に記載します。

2. 特定の条件を明確に設定する

 予備的遺言が有効となる条件を明確にしておくことが重要です。たとえば、「相続人が死亡した場合」「相続放棄した場合」「相続欠格に該当した場合」など、予備的遺言が適用される具体的な状況を設定しておきましょう。

  • 不確定な条件や、想定外の状況が発生した場合に適切に対処できるよう、十分に検討する必要があります。

3. 相続放棄や欠格の場合の取り扱い

 相続放棄や相続欠格が発生した場合、予備的遺言が適用されるのか、またその際にどのような措置を取るかを事前に考慮しておくべきです。予備的遺言を作成する際、これらの状況に備えて、代替の相続人を設定しておくことが適切です。

4. 遺留分に注意

 遺留分(法律で保護された最低限の相続分)を侵害する内容の予備的遺言は、遺留分侵害請求が行われる可能性があります。予備的遺言を作成する際、遺留分権利者の権利を考慮して、遺言が無効にならないように注意する必要があります。

※遺留分を持つ相続人が存在する場合、その権利を無視した予備的遺言はトラブルを招く可能性が高いです。

5. 信頼できる証人や公正証書を利用する

 予備的遺言も他の遺言と同様に、形式的な要件を満たす必要があります。自筆証書遺言や秘密証書遺言は形式不備によって無効になるリスクがあるため、公正証書遺言で予備的遺言を作成するのが安全です。特に複雑な条件を設定する場合は、公証人に相談して遺言内容を法的に正しく記載することが大切です。

6. 相続人の感情や家族間の関係を考慮する

 予備的遺言を作成する際、相続人や家族の感情も考慮する必要があります。たとえば、予備的相続人として指定された人が、予備的であることに不満を抱いたり、争いを引き起こす可能性があるため、家族間のバランスや関係性にも配慮が必要です。

7. 遺言書の定期的な見直し

 予備的遺言を作成した後も、状況が変わることがあります。相続人や予備的相続人の健康状態や家庭の状況が変わった場合、または新たな資産が追加された場合など、定期的に遺言書を見直し、必要に応じて変更することが重要です。

認知症と遺言書の関係

 認知症と遺言の作成には密接な関係があります。認知症が進行すると、遺言を作成するための意思能力(遺言者が自分の行動やその結果を理解し、適切に判断できる能力)が失われることがあります。予備的遺言を作成する際には、特に認知症との関連でいくつかの重要な注意点があります。

認知症と遺言作成の関係

 遺言を有効に作成するためには、遺言者がその内容を理解し、自分の意思に基づいて行動していることが必要です。この能力は「意思能力」と呼ばれます。認知症などによって意思能力が欠如した状態で作成された遺言は、無効になる可能性があります。

認知症と予備的遺言の注意点

  1. 遺言作成時の意思能力の確認 認知症の進行度合いによっては、遺言作成時に意思能力が十分でないと判断されることがあります。予備的遺言を作成する際には、遺言を作成する時点で意思能力がしっかりしているかどうかを確認することが非常に重要です。必要に応じて医師の診断書を取得しておくと、遺言の有効性に対する後日の争いを防ぐことができます。
    • 医師の診断書の取得: 遺言作成時に医師の診断書を添付しておくことで、遺言者が意思能力を有していたことを証明しやすくなります。
  2. 公正証書遺言の利用 認知症が疑われる場合や将来的に意思能力の低下が懸念される場合は、公正証書遺言を作成することを強く推奨します。公証人が遺言者と面談し、意思能力を確認したうえで遺言を作成するため、遺言の有効性が争われにくくなります。
    • 公証人による確認: 公証人は遺言者と面談し、その場で意思能力を確認するため、遺言の有効性が後に争われた場合も信頼性が高いです。
  3. 予備的遺言の作成を早めに行う 認知症は進行性の疾患であり、発症後に意思能力が徐々に低下していくため、早い段階で遺言や予備的遺言を作成することが重要です。特に認知症のリスクが高い場合や、家族歴に認知症がある場合は、元気なうちに遺言を準備しておくことが推奨されます。
  4. 家族の協力と合意 認知症が進行して遺言者の意思能力が低下すると、相続に関する争いが生じやすくなります。予備的遺言を含む遺言を作成する際は、家族間で協力し合い、遺言者の意向を尊重することが大切です。特に、予備的に相続人を指定する場合、予備的相続人となる人物やその理由を家族に説明しておくことで、トラブルを防ぐことができます。
  5. 成年後見制度との関係 認知症が進行して意思能力が低下した場合、成年後見制度が適用されることがあります。成年後見制度の下では、後見人が財産管理や法律行為を代行しますが、成年後見人は遺言を作成することができません。したがって、認知症が進行する前に遺言書(予備的遺言を含む)を作成しておくことが極めて重要です。
  6. 予備的遺言の内容を明確にしておく 認知症が進行してから遺言が無効になるリスクを防ぐためにも、予備的遺言を作成する際には、遺言者の意図が明確に記載されていることが重要です。予備的相続人を指定する理由や、その相続分をしっかり明記しておくことで、後々の争いを防ぐことができます。

認知症が疑われる場合の対応

  • 医師の診断を受ける: 認知症の兆候がある場合、医師に相談して適切な診断を受け、意思能力が十分にあるかどうかを確認することが重要です。
  • 早期に遺言を作成: 認知症が進行する前に、早めに遺言を作成し、予備的遺言の記載も含めることで、遺言が無効になるリスクを回避できます。
  • 専門家に相談: 弁護士や公証人に相談し、適切な手続きを踏むことで、法的に有効な遺言を作成することができます。

まとめ

 予備的遺言を作成する際、認知症のリスクを考慮することは非常に重要です。以下の点に注意して作成を進めることで、遺言の有効性を確保し、家族間のトラブルを防ぐことができます。

  • 遺言作成時の意思能力の確認
  • 公正証書遺言を利用
  • 遺言の早期作成
  • 遺言内容を明確にし、家族と共有
  • 必要に応じて医師の診断書を取得

このような準備を整えておくことで、認知症が進行した場合でも、遺言者の意思をしっかりと反映させることができます。

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