障がい者手帳保持者は遺言書を作れない?

障がい者手帳について

 障がい者手帳は、障害を持つ人が一定の支援やサービスを受けるために必要な証明書です。障がい者手帳には、身体障害、精神障害、知的障害の3つの種類があり、それぞれに応じた支援が提供されます。障害の度合いや種類によって異なるサポートを受けることができ、生活の利便性向上や経済的な支援に役立ちます。

以下は、障がい者手帳の種類と、それぞれに関連するサービスについての概要です。

1. 身体障害者手帳

  • 対象: 視覚、聴覚、肢体不自由、内部障害(心臓、呼吸器など)、言語障害、平衡機能障害などの身体的障害を持つ人。
  • 等級: 1級から7級(交付は6級から)まであり、障害の重さによって分類されます。

サービス内容:

  • 税金の減免: 所得税、住民税、自動車税、贈与税などの減免や非課税措置があります。
  • 福祉サービス: 福祉用具の貸与や、住宅改修の補助、介護サービスが提供されます。
  • 交通費の割引: 公共交通機関(電車、バス、飛行機など)の運賃が割引されます。また、本人だけでなく、介護者も割引を受けることができる場合があります。
  • 医療費助成: 自治体によって医療費が助成されることがあり、特定の条件を満たす場合には自己負担が軽減されます。
  • 駐車場の優遇措置: 障害者用の駐車スペースを利用できるほか、自動車税や車検に関わる減免も受けられます。

2. 精神障害者保健福祉手帳

  • 対象: 統合失調症、うつ病、双極性障害などの精神疾患を持つ人。
  • 等級: 1級から3級まであり、障害の程度に応じて分類されます。

サービス内容:

  • 税金の減免: 所得税や住民税、自動車税などが減免されることがあります。
  • 医療費助成: 精神科への通院や入院にかかる医療費の一部が助成されます(精神通院医療費制度)。
  • 公共交通機関の割引: 一部の自治体や交通事業者で、電車、バスなどの運賃割引が適用されます。
  • 就労支援: 就労継続支援(A型・B型)や就労移行支援など、精神障害者向けの仕事探しや職場でのサポートが受けられます。
  • 自立支援サービス: 精神保健福祉センターなどを通じて、日常生活や社会復帰に向けた支援を受けられます。

3. 療育手帳(知的障害者向け手帳)

  • 対象: 知的障害のある人が対象です。発達障害を持つ場合でも、知的障害を伴う場合は療育手帳が発行されます。
  • 等級: 重度(A)と軽度・中度(B)などの区分があります。

サービス内容:

  • 税金の減免: 所得税や住民税、自動車税の減免や非課税措置があります。
  • 福祉サービス: 施設入所支援や、生活支援サービス、地域生活を送るための福祉サービスが提供されます。
  • 交通費の割引: 公共交通機関の割引制度や、施設の入場料や利用料の割引もあります。
  • 医療費助成: 自治体によって、知的障害を持つ人の医療費が助成される場合があります。
  • 教育支援: 特別支援教育や、療育施設での学びの場を提供する制度があります。

共通の支援やサービス

 障がい者手帳の種類に関わらず、共通して利用できる支援やサービスもあります。

  • 福祉施設利用: 障害者専用の福祉施設や、支援サービスの利用が可能です。
  • 住宅支援: 公営住宅への優先入居や、バリアフリー化に向けた住宅改修の補助が受けられます。
  • 生活支援サービス: 日常生活をサポートするための介護や家事支援、移動支援サービスなどが提供されます。
  • 教育・学習支援: 特別支援学校やクラスへの通学支援、学習機会の提供があります。

障がい者手帳を持ってる人は遺言を残せるのか

 障がい者手帳を持つ方が遺言書を作成する際、いくつかの特別な注意点や考慮すべきポイントがあります。障害のある方が遺言を作成することは可能ですが、特に意思能力や法的な手続きが重要になります。また、遺言の内容に障がい者の相続人が含まれる場合、特別な配慮も必要です。

以下は、障がい者手帳を持つ方が遺言書を作成する際のポイントや、障害者が相続人となる場合の配慮についての解説です。

1. 障がい者が遺言書を作成する際の注意点

1.1. 意思能力の確認

遺言書を作成するためには、遺言者が意思能力を有していることが必要です。意思能力とは、遺言の内容を理解し、自分の行為の結果について適切に判断できる能力を指します。障がい者手帳を持つ方でも、意思能力がある場合は有効な遺言書を作成できますが、特に知的障害や精神障害を持つ場合、遺言作成時の意思能力が問題になることがあります。

  • 医師の診断書: 障害がある場合、遺言書作成時に意思能力があることを証明するために、医師の診断書を取得することが推奨されます。診断書があると、後に遺言書が無効とされるリスクを減らせます。

1.2. 公正証書遺言を利用する

障がい者手帳を持つ方が遺言書を作成する際、公正証書遺言を利用するのが安全です。公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思能力を確認し、法的な要件を満たしているかどうかを確認した上で作成されるため、後に有効性が争われるリスクが低くなります。

  • 公証人が本人と面談し、遺言の内容を確認します。意思能力が十分であるかどうかもその場で確認されます。
  • 障害により、直接署名や押印ができない場合でも、公証人が代筆できるため、安心して遺言を作成できます。

1.3. 補助や後見人の影響

認知機能や精神的な判断力に問題がある場合、成年後見制度や補助制度が適用されることがあります。しかし、後見人がついた場合、後見人は遺言書を作成できません。したがって、意思能力があるうちに遺言書を作成しておくことが重要です。

  • 成年後見制度: 成年後見人が選任された場合、財産管理は後見人が行いますが、遺言は本人にしか作成できません。

2. 障害者が相続人となる場合の配慮

 障がい者が相続人となる場合、特に障害の程度や生活状況に応じて、相続財産の分配や管理方法について考慮することが必要です。

2.1. 相続財産の管理

 知的障害や精神障害を持つ相続人が、相続財産を自ら管理できない場合、成年後見制度を利用して財産管理をサポートする方法があります。また、遺言書の中で、信頼できる人を遺言執行者として指定し、相続財産の管理や分配を行うことも有効です。

  • 信託制度の利用: 障害を持つ相続人に対して、財産を信託し、信頼できる受託者が財産を管理する方法(例: 障害者信託)もあります。これにより、障害者が安全に財産を管理・利用できるようになります。

2.2. 特別受益者としての配慮

 障がい者が相続人であり、生活支援や医療費などで特別な経済的支援を必要とする場合、他の相続人と公平な分配が難しくなることがあります。この場合、遺言者は遺言書に特別受益者として障がい者を指定し、通常より多くの財産を相続させることができます。

  • 遺留分に注意: 他の相続人の遺留分を侵害しないように、遺産分割の際にはバランスを考える必要があります。弁護士や専門家に相談しながら進めることが推奨されます。

2.3. 特別寄与者に対する配慮

 障がい者の介護や生活支援をしている家族がいる場合、特別寄与者として、遺言書にその人への配慮を記載することができます。これにより、障がい者本人だけでなく、支援を行っている家族にも適切な財産分配を行うことが可能です。

3. 障がい者に対する法定相続分と遺留分

 障がい者が相続人である場合でも、他の相続人と同様に法定相続分遺留分が適用されます。遺言書で障がい者に多くの財産を分与する場合、他の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。特に、障がい者の生活を支えるために多くの財産を遺贈する場合には、遺留分に配慮し、相続トラブルを避けるための対策が必要です。

まとめ

 障がい者手帳は、障害のある人が社会生活を送る上でのサポートを受けやすくするための重要な証明書です。障害の種類や程度によって受けられるサービスは異なりますが、日常生活の向上や経済的負担の軽減、福祉サービスの利用に大いに役立ちます。手帳の申請や利用できるサービスについては、各自治体や福祉事務所、医療機関に相談することができます。

 障がい者手帳を持つ方が遺言書を作成する際や、障がい者が相続人となる場合には、意思能力の確認、財産管理の方法、成年後見制度の利用など、特別な配慮が必要です。遺言の作成に際しては、公正証書遺言を利用することで法的なトラブルを防ぐことができます。また、信託制度や遺言執行者の指定によって、障がい者の相続後の生活や財産管理を安心して行うことができます。

 遺言書の作成や相続に関する詳細なアドバイスについては、弁護士や信頼できる専門家に相談することが推奨されます。当事務所も対応可能です。ぜひ、ご相談下さい。

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