限定承認とは
限定承認とは、相続に関する手続きの一つで、相続人が被相続人(亡くなった人)の財産を相続する際、遺産の範囲内でのみ債務(借金など)を引き継ぐという制度です。通常の相続(単純承認)では、相続人は被相続人の財産だけでなく、負債も全て引き継ぐことになりますが、限定承認を選択することで、相続する財産の範囲内でしか負債を返済しないことができます。
相続人が相続放棄や限定承認をする場合には,原則として,「自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったことと,それにより自分が相続人となったこと)を知った時」から3か月以内に家庭裁判所でその旨を申述しなければならないとされており(民法第915条第1項),この期間を熟慮期間といいます。
限定承認の申述件数は、近年の日本全国の裁判所において、相続放棄の申述件数と比較すると少ない傾向にあります。
相続放棄の申述件数 | 限定承認の申述件数 | |
---|---|---|
近年の件数 | 16〜18万件 | 800~1,000件 |
限定承認の特徴
- 遺産の範囲内で債務を引き受ける:相続人は、被相続人の遺産(プラスの財産)を超えて借金や債務(マイナスの財産)を支払う義務を負いません。つまり、遺産がマイナスであった場合、それ以上に自分の資産で借金を返す必要はありません。
- プラスの財産もマイナスの財産も相続する:限定承認を選ぶと、遺産全体を引き継ぎますが、その価値を超える負債の支払い義務はありません。財産が多ければプラスの財産を受け取り、負債が多ければ負債を返済しても、それ以上の負担を負うことはありません。
- すべての相続人が共同で行う:限定承認は、相続人全員が共同で申し立てる必要があります。1人でも同意しない相続人がいる場合、限定承認はできません。
限定承認のメリット
- 負債のリスクを回避できる:被相続人の財産と負債が不明確な場合、限定承認を選ぶことで、自分の資産を守りつつ、負債の範囲を相続財産内に限定することができます。
- 財産を整理しやすい:財産と負債のバランスが不明な場合、限定承認を選べば、後から予想外の借金が出てきても安心です。
- 遺産の一部を残せる可能性がある:もし遺産のプラスが負債を上回っていれば、負債を支払った後に残った財産を受け取ることができます。
限定承認のデメリット
- 手続きが複雑:限定承認を行うためには、家庭裁判所に対して正式に手続きを行う必要があります。財産や負債の整理も通常の相続よりも複雑です。
- 全員の同意が必要:すべての相続人が共同で行う必要があるため、1人でも反対する相続人がいれば限定承認はできません。
- 期限がある:限定承認は、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に手続きを行わなければなりません。この期間内に手続きをしないと、単純承認(すべての財産と負債を無条件に引き継ぐこと)とみなされてしまいます。
限定承認の手続き
- 遺産の調査:最初に被相続人の財産や債務を調査し、限定承認が有利かどうかを確認します。遺産がマイナスかどうか不明な場合や、負債がある場合に選択されることが多いです。
- 家庭裁判所への申立て:相続人全員で共同して、家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出します。この際、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に申請しなければなりません。
- 財産目録の作成:限定承認を申請する際には、被相続人の財産と負債を明記した財産目録を作成し、裁判所に提出します。
- 債務の弁済:裁判所の許可が下りた後、遺産を整理し、債権者に負債を遺産の範囲内で弁済します。財産が残れば、それを相続人が受け取ります。
限定承認を利用するケース
- 被相続人の負債が多い可能性があるが、財産も一定以上ある場合
- 遺産の中に不動産などの処分しにくい資産が含まれている場合
- 財産と負債の内容が不明確な場合
限定承認の費用について
限定承認の費用は、いくつかの要素によって異なります。基本的に、家庭裁判所への手続きや専門家への依頼費用が必要です。以下は、限定承認にかかる主な費用の概要です。
1. 裁判所への申立て費用
家庭裁判所に限定承認を申し立てる際には、いくつかの手続き費用がかかります。
- 収入印紙代:限定承認の申立てに必要な印紙代は、相続人1人につき800円です。
- 予納郵便切手:裁判所とのやり取りに使用する郵便切手代が必要で、金額は裁判所によって異なりますが、数千円程度です。
- 財産目録の作成費用:自分で作成する場合には特に費用はかかりませんが、専門家に依頼する場合は費用が発生します。
2. 専門家への依頼費用
限定承認は手続きが複雑なため、司法書士や弁護士に依頼することが一般的です。専門家に依頼する場合の費用は、以下のような点で変動します。
- 司法書士・弁護士への報酬:相続財産や負債の状況に応じて異なりますが、司法書士や弁護士に依頼する場合の報酬は20万〜50万円程度が目安です。相続財産の額が大きかったり、手続きが複雑な場合には、さらに高額になることもあります。
3. その他の費用
- 不動産の売却費用:限定承認後に、不動産を売却して債務を弁済する場合、その際の仲介手数料や登記費用が必要となります。
- 税理士への依頼費用:相続税が発生する場合や、財産の整理に税務の知識が必要な場合、税理士に依頼することがあります。その場合、相続財産の評価や申告に対しての報酬が発生します。税理士の費用は、相続財産の総額に応じて10万円から数十万円程度が一般的です。
4. 限定承認にかかる総額の目安
限定承認にかかる費用の総額は、家庭裁判所への申請費用や専門家への依頼費用を含めて、通常数十万円ほどです。もし不動産の売却などが必要な場合や、相続財産が多い場合は、さらに費用がかかることもあります。
費用を抑えるための方法
- 手続きを自身で行うことで、司法書士や弁護士への報酬を抑えることは可能です。ただし、手続きは複雑であり、ミスを防ぐために専門家に依頼することが一般的です。
- 財産目録の作成や相続財産の調査を自分で行うことも、費用を抑える一つの方法です。
まとめ
限定承認は、遺産の中に負債が含まれている場合に、相続人がそのリスクを回避しながらも財産を相続するための制度です。借金の額が不明な場合や、負債の可能性がある場合に有効な選択肢ですが、手続きが複雑で全員の同意が必要です。また、申請の期限もあるため、早めに手続きを進める必要があります。
限定承認にかかる費用は、家庭裁判所への申立て費用は数千円程度ですが、司法書士や弁護士に依頼する場合の報酬が加わるため、一般的には20万円から50万円程度が必要です。相続財産の状況によってはさらに高額になる場合もあるため、費用を見積もりつつ早めに専門家と相談することが大切です。
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