家族信託(民事信託)制度のメリットデメリット

 今回は信託について話をしていきます。なお、銀行や信託会社が提唱する信託とは違うため、ご容赦下さい。

 家族信託(かぞくしんたく)は、資産管理や相続に関する問題を解決するための法律的な仕組みです。特に、認知症などにより資産管理が難しくなる将来に備えて、家族の誰かに財産の管理や運用を委託し、円滑な資産承継を可能にします。

家族信託の特徴

  1. 資産の管理と運用
    家族信託では、財産の持ち主(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産を預け、信託契約に基づいて受託者がその財産を管理・運用します。受益者(利益を受ける人)は、財産の持ち主や他の家族になることが多いです。
  2. 高齢者や認知症対策
    高齢者が認知症などで資産を管理できなくなる場合、通常は家庭裁判所が成年後見人を選定しますが、家族信託を利用することで、その手続きを避け、事前に信頼できる人に資産管理を託すことができます。
  3. 柔軟な財産承継の設計
    通常の遺言では、一度相続された財産のその後の処理に制約が少ないのですが、家族信託を使うと、複数世代にわたる財産の承継や管理方法を事前に細かく指定することが可能です。後継ぎ遺贈型受益者連続信託ともいいます。
  4. 信託財産の保護
    家族信託に入れた財産は、信託契約に基づいて管理されるため、受託者の個人的な借金の対象にならないというメリットがあります。

家族信託の流れ

  1. 信託契約の作成
    委託者(財産を持っている人)が信頼できる受託者(財産を管理する人)と信託契約を締結します。この契約には、財産の管理方法や利益を受ける人、資産の運用方針などが記載されます。
  2. 財産の移転
    契約後、信託財産として扱われる財産が受託者に移転されます。この財産には、土地、建物、現金、株式などが含まれることがあります。
  3. 信託の実行
    受託者は信託契約に従って財産を管理・運用し、受益者に利益を分配します。例えば、信託した土地を貸して賃料収入を得たり、株式から配当を受け取ることがあります。
  4. 終了または継続
    委託者の死亡などで信託が終了する場合、財産の分配方法は契約に基づきます。また、次の受託者が指定されている場合、信託は継続します。
  5. 家族信託にかかる費用は、依頼する内容や専門家の報酬によって大きく異なります。以下に、家族信託に関わる主な費用とその相場についてまとめます。

費用の相場

  1. 専門家への相談料 
    弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの相談料
    家族信託を行う際、最初に専門家に相談するための費用が発生します。
    相場: 1時間あたり5,000円〜2万円程度が一般的です。ただし、初回相談は無料の専門家もいます。
  2. 信託契約書の作成費用
    家族信託を行うためには、信託契約書の作成が必要です。これを依頼する場合、法律の専門家に依頼することが多いです。
    相場:司法書士や行政書士: 20万円〜50万円程度弁護士: 30万円〜100万円程度依頼する専門家の経験や案件の複雑さによって価格が変わります。財産の種類や規模が大きい場合、より高額になることがあります。
  3. 公正証書作成費用
    信託契約書を公正証書として作成する場合、公証役場に対して手数料がかかります。信託契約書を公正証書にすることで、法的効力がより強固になります。
    公正証書の作成には財産の額に応じて手数料が異なります。
    例えば、信託財産が1,000万円の場合、5万円程度が相場です。財産額が増えるほど、公証役場に支払う手数料も上がります。
  4. 登記費用
    家族信託で不動産を信託財産にする場合、その不動産の登記が必要です。この際、登記の手数料や登録免許税が発生します。
    相場:登録免許税: 不動産の評価額に対して0.4%が課税されます。例えば、不動産の評価額が3,000万円であれば、12万円が登録免許税としてかかります。
  5. 信託口口座の開設費用
    信託財産を管理するための専用の銀行口座「信託口口座」を開設する際、特に手数料がかかることはありませんが、銀行によっては信託関連サービスに関する手数料が発生する場合があります。
  6. 資産運用や税務の専門家への依頼費用
    信託財産の運用にあたっては、税理士や資産運用のアドバイザーに相談することもあります。特に、信託財産が多岐にわたる場合、定期的な税務申告や運用アドバイスが必要になります。
    相場: 内容により異なりますが、年間数万円〜数十万円程度の税務顧問契約が必要な場合があります。
  7. その他の関連費用
  8. 信託財産の管理費用: 信託契約の履行や財産の管理にはコストがかかることがあります。特に、信託財産が不動産の場合、その管理費用や維持費が必要です。
  9. 遺言書作成費用: 家族信託と併せて遺言書を作成することも多く、その場合、遺言書の作成費用(司法書士・弁護士に依頼する場合、10万円〜30万円程度)が追加で発生することがあります。
  10. 家族信託全体の費用の目安
  11. 総額の相場: 家族信託の全体的な費用としては、50万円〜100万円程度が一般的な相場ですが、信託財産の規模や内容によってはこれ以上の費用がかかることもあります。

家族信託のメリット

  • 認知症リスクに対応
    財産の管理を早い段階で信託契約に基づいて行えるため、認知症などで判断能力を失った場合も問題なく財産管理が継続できます。
  • 成年後見制度より柔軟
    家族信託は成年後見制度よりも資産の管理・運用が自由で、財産の運用も委託者の意志により柔軟に行えます。
  • 相続のトラブルを回避
    事前に相続財産の分配方法を契約で定めておくことで、相続時のトラブルを防ぐことができます。

家族信託のデメリット

  • 信託財産の流動性が低下
    一度信託した財産は自由に処分できない場合があるため、資金の柔軟な運用に制限がかかることがあります。
  • コストがかかる
    信託契約を作成する際には、専門家(弁護士、司法書士など)の手数料が発生し、維持管理にも費用がかかることがあります。トータルで100万円以上かかることもあります。

 家族信託は、将来的な資産管理や承継に対して非常に有効なツールですが、契約内容や目的によっては複雑な側面もあるため、事前に専門家のアドバイスを受けることが重要です。

家族信託において、受託者にはいくつかの重要な義務があります。

受託者の主な義務

  1. 信託財産の管理・運用: 委託者から託された財産を、信託契約に従って適切に管理・運用する。
  2. 信託報告義務: 定期的に受益者や委託者に対して、信託財産の運用状況を報告する義務がある。
  3. 善管注意義務: 受託者は信託財産を管理する際、一般の注意義務を持ち、慎重に対応する必要がある。
  4. 利益相反行為の禁止: 受託者は、自身の利益と信託財産の利益が対立するような行為をしてはならない。

これらの義務により、受託者は委託者や受益者の信頼に基づいて誠実に職務を遂行する責任を負います。

感想

 家族信託は遺言や後見制度でできないような資産運用を行う事ができますが、コストがかかることや、受託者になるには専門家が受託者になれない可能性があります。これは、信託法に記載があるためです。

  私の所感としては、お金や賃貸用不動産ををたくさん持っていて、相続税に引っかかる人は利用する価値があるのかもしれませんが、もともと大地主の人はともかく、近年は法人化してしまう人も多いため、 個人の相続税で引っかかる人は少ない気がします。実際に、令和4年度では相続税の申告をした人は10%弱しかいません。

 主に司法書士法人や税理士法人が報酬が高いために不安を煽っている例もあるようなないような…

 家族信託以外にもおすすめな制度はたくさんあるので、相談者に合った制度を紹介していけたらなと思います。

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