意思能力や判断能力の低下による資産凍結のリスクについて考えてみる

 タイトル通り、意思能力や判断能力の低下による資産凍結のリスクについて考えてみる。個人の考えがはいっているので雑談程度に見ていただきたい。

 認知症や脳梗塞、脳出血のような後天的な病気や障がいから、先天的な病気などで意思能力や判断能力が低下することで直面する課題はたくさんある。今回は病気を治したり、悪化しないように維持したり、予防したりする医療・福祉・介護等の視点ではなく、財産を守るという観点から考えてみた。

 例えば、認知症症例の約2/3を占めるアルツハイマー型認知症について考えてみると、臨床的に60代くらいからアミロイドβタンパクが脳内で蓄積され、これは、認知症の症状が現れる20年以上前から蓄積し始めると言われている。このアミロイドβタンパクの蓄積によって神経細胞やシナプスを傷つけ、脳が委縮する。結果、記憶障害や認知機能の低下を引き起こす。現在、認知症に効くであろうという薬が数種類あるが、一般的には、認知症は不可逆的だと言われていて、良くなることはない。つまり認知症になった後は完治を目指すというよりも進行を緩めたり、悪化の予防に力を入れていくほかないと思っている。

 また、常識的にも人間は老いる生き物なので、若いときよりもどうしても何かしらの能力は衰えていくものだと思う。そのため、ここでは他人事だと思わずに一緒に考えてみていただきたい。

 そもそもなぜ財産凍結が起こるかというと、それは民法に規定がある。

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

 意思能力とは、有効に意思表示をする能力、すなわち法律行為を有効にするために必要な法的な判断能力である。意思能力がない人が単独で契約を締結することはできず、成年後見人等が代理で意思表示をする必要がある。つまり、『契約』行為が無効なため、預貯金の解約や不動産売買契約ができなくなるという理屈だ。

 資産凍結でみなさん誰もが困ると思うのが、主に銀行の口座凍結リスクだと思う。『でも、家族の人が暗証番号を分かっていれば、高額は下ろせないけど、毎日50万円までなどの比較的少額なら下ろせるから、問題ないでしょ。』と思うかも知れない。

 確かに、それはそうかもしれないが、そもそも親が口座番号を忘れていたらどうする? また、定期預金は解約や名義変更できない。お金に困らない人は相続になってから解約すればよいかと思っていると、そういう人は今度は相続税について頭を悩ますことになる。この悩みは通帳の預貯金だけでなく、株式や投資信託、FX口座などでも同じだ。

 でも私が1番危惧しているのは、不動産の方だ。田舎になればなるほど不動産を所有している世帯は増えていく。これが1つの土地だけでなく、農地を持っていたり、またはボロいアパートを持っていたりで、これらを生前に処分することができなくなる。

 なぜ不動産が大変なのかというと、相続の時に起きる。この不動産を誰が相続するかだ。不動産を遺産分割する方法は、主に次の4つある。

  • 現物分割:不動産をそのままの形で引き継ぎ、法定相続割合に応じて分割する方法。
  • 代償分割:財産をもらった方が差額等を現金で払う方法。
  • 換価分割:不動産を売却して得た金額を法定相続分で分け合う方法。
  • 共有分割:不動産をそのまま複数の相続人が共有する方法。

それぞれ、注意しないといけないことがあるので書いてみる。

 現物分割の具体例としては、 
①土地は長男、建物は次男、車は三男など
②土地を相続分に応じて分筆して分ける などがある

 現物分割は最も広く一般的に行われている分割方法だが、実行できる場面は多くない。たとえば、共有不動産が一戸建てなどの建物であった場合、建物を2つに分けることはできないし、共有者が多いと現物分割により土地が細分化され、かえって不動産の価値が下がることもあり得る。

 代償分割は合理的な方法だが、例えば長男がもともと亡くなる親と同居しており、不動産(時価1,000万円)を長男が相続し、次男は長男から500万円を代償分割すると遺産分割協議をしたとする。そもそも長男が500万円をもってなかったら一括で代償できないので、月払いや年払いになるが、それもいつまで約束が果たされるか分からない。あるときから長男が払わないかもしれない。ここに、トラブルが起こるリスクがある。

 換価分割は例えば、売却が難しく、売却完了まで長期間かかる場合、相場より安くしか売れない。また、時間がかかると、換価分割なのに後から贈与税がかかったりする。また、売却にあたり仲介手数料などの諸経費が必要だったり、譲渡所得税が発生する。このあたりを理解していないと、思っていたより財産が手元に残らない。

 そして共有分割。こいつは1番だめだ。一応私は土地家屋調査士なので、最低限民法や不動産登記法は分かるつもりでいるが、共有分割は将来かなりの確率で揉める。例えば、親が亡くなって長男と次男が土地建物を共に持分1/2で相続したとしよう。兄弟が仲が良いのでそれでよいかもしれない。月日が経って長男が亡くなった。長男の持分をその子どもが相続した。さて、次男がこの不動産を売却したいと言った。長男と次男は仲が良いので揉めなかったが、長男の子どもと次男の仲が良いとは限らない。ましては次男が亡くなって、次男の奥さんが相続したらどうだ。ほぼ他人同士が共有している状態じゃないか。こんなので、話がまとまるはずがない。

 以上のことから、不動産は結構揉めやすい。このことを分かっていて、生前にどうにか対応できればよいのだが、意外と人間はそのとき、自分がその立場にならないと反応しない。以下の記事で、生前の対応策を書いた。ぜひ見て欲しい。

 また、当事務所では1つの対応策ではなく、複数の案や最適な意見を出そうと日々研究している。自分でネットや本で調べた後で良いので、そのときに困ったことが有れば気軽にご相談を。

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