今回は成年後見と任意後見の違いを簡単に書いていきます。
成年後見と任意後見は、どちらも判断能力が不十分な方を支援するための制度ですが、それぞれの仕組みや利用方法に違いがあります。以下に、両者の主な違いを説明します。
1. 成年後見
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方が、適切な支援を受けて生活できるように設けられた制度です。この制度の目的は、判断能力が不十分な方の財産管理や契約手続きなどを支援し、本人の権利を守ることです。成年後見制度は、家庭裁判所の監督のもとで運用されます。
成年後見制度の種類
- 対象:判断能力がすでに不十分な人(例:認知症、知的障害、精神障害のある人)
- 開始の時期:本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所に申し立てを行い、後見人が選ばれて開始される。
- 後見人の選任:家庭裁判所が後見人を選任します。親族以外の専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が選ばれることもあります。
- 後見人の権限:後見人は、本人の財産管理や契約手続きに広範囲で関与する権限を持ちます。
- 監督機関:家庭裁判所が後見人の活動を監督します。
成年後見制度には3つのタイプがあり、本人の判断能力の状況に応じて適用されます。
後見人、補佐人、補助人は、いずれも判断能力が不十分な方を支援するための制度ですが、本人の判断能力の程度によって役割や権限が異なります。それぞれの違いを以下に説明します。
後見人
- 対象: 判断能力が全くないか、ほとんどない人(例:重度の認知症や知的障害、精神障害がある人)。
- 支援の内容: 財産管理や日常生活に必要な行為の全般を代理します。後見人は、本人の財産管理や契約の締結などを完全に代行できます。
- 権限: 非常に広範囲な権限を持ちます。本人が行った法律行為は後見人が同意なしに取り消すことができます。
- 本人の関与: 本人が自分で意思決定するのは困難なため、後見人が全面的に代理します。
補佐人
- 対象: 判断能力が著しく不十分な人(例:中程度の認知症や精神障害、知的障害がある人)。
- 支援の内容: 本人が自分でできない、または難しい特定の重要な行為について同意や代理を行います。
- 権限: 後見人ほどの強い権限はありませんが、特定の行為(不動産の売買、重要な契約など)に対して補佐人の同意が必要になります。また、補佐人が代理して行うことができる範囲も法律で定められています。
- 本人の関与: 本人は自分で日常的な意思決定は行いますが、重要な行為については補佐人の同意が必要です。
補助人
- 対象: 判断能力が一部不十分な人(例:軽度の認知症や精神障害、知的障害がある人)。
- 支援の内容: 本人が希望する特定の行為について、補助人が同意や代理を行います。支援する範囲は、本人が家庭裁判所に申請して決めます。
- 権限: 補助人は、本人が特定の行為についてのみ同意や代理を行います。補助人が関与できる行為は本人と補助人が相談して決めます。
- 本人の関与: 本人ができることはできる限り本人が行い、補助人は本人ができない部分をサポートします。本人の意思が反映されやすい制度です。
3つの制度の比較
項目 | 後見人 | 補佐人 | 補助人 |
---|---|---|---|
対象者の判断能力 | 判断能力がほとんどない(重度の障害) | 判断能力が著しく不十分(中程度の障害) | 判断能力が一部不十分(軽度の障害) |
支援の範囲 | 財産管理や生活に関するすべての行為 | 特定の重要な行為に対する同意・代理 | 本人が希望する特定の行為に対する同意・代理 |
本人の権限 | ほとんどの行為を後見人が代行 | 日常的な行為は本人が行い、重要な行為は補佐人が同意 | 基本的には本人が行い、特定の行為のみ補助人が支援 |
権限の強さ | 最も広範囲 | 中程度 | 最も限定的 |
本人の判断能力の程度や支援が必要な範囲に応じて、どの制度が適切かが決まります。
成年後見人の役割
成年後見人(後見人、保佐人、補助人)は、本人の財産管理や契約の代理を行うほか、本人の生活、療養、看護などの支援も行います。これにより、本人の生活の安定や福祉が確保されます。
成年後見制度の申し立て
成年後見人を選任するには、本人またはその親族が家庭裁判所に申し立てを行います。家庭裁判所が適切な成年後見人を選び、その後、後見業務が開始されます。
成年後見制度は、本人の権利を守るための重要な制度であり、特に判断能力が低下した場合に役立つサポートです。
2. 任意後見
任意後見制度は、本人がまだ判断能力を持っている段階で、自ら信頼できる人(任意後見人)に、将来判断能力が低下したときのために後見を依頼するための制度です。これは、本人の意思を尊重し、将来の財産管理や生活支援などを事前に準備しておくことが目的です。
任意後見制度の特徴
1. 本人の意思で後見人を選べる
任意後見制度は、本人が将来の判断能力低下に備えて、事前に自分で信頼できる人を選び、その人に後見を依頼します。これにより、本人の希望に基づいて後見人を決定できるため、安心感があります。
2. 任意後見契約の締結
任意後見は、本人が任意後見人となる人と「任意後見契約」を公正証書で締結することで成立します。この契約は、本人が将来判断能力を失ったときに備えて、後見人にどのような権限を与えるかを事前に取り決めるものです。
- 契約内容は、財産管理、生活の支援、医療や介護の手続きなどを細かく指定できます。
- 契約書は必ず公証役場で作成し、公正証書にする必要があります。
3. 任意後見契約の発効
任意後見契約は、すぐに発効されるわけではなく、本人の判断能力が低下したときに家庭裁判所で「任意後見監督人」が選任されると発効します。任意後見監督人は、任意後見人が適切に業務を行うよう監視・指導する役割を持っています。
4. 任意後見監督人の存在
任意後見人が選ばれた後、家庭裁判所は任意後見監督人を選任します。この監督人は、任意後見人の活動を監視し、不正行為や不適切な行為がないかをチェックする役割を果たします。これにより、本人の権利が守られるようになっています。
任意後見制度の流れ
- 判断能力があるうちに契約
本人が任意後見人と契約を結び、後見人の権限や任務内容を決定します。 - 家庭裁判所に申し立て
本人の判断能力が低下した場合、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。 - 任意後見監督人の選任
家庭裁判所が監督人を選び、これにより契約が発効します。 - 後見活動開始
任意後見監督人の監督のもと、任意後見人が本人の財産管理や生活支援を行います。
任意後見契約のメリット
- 自分で後見人を選べる
将来の後見人を自分で選び、信頼する人に後見を依頼できるため、安心して老後の生活を計画できます。 - 本人の意思を反映できる
契約内容を自分で指定できるため、本人の希望に応じた財産管理や生活支援を受けることができます。 - 柔軟な契約内容
契約の範囲を自由に決めることができ、特定の事項に限定した後見を依頼することも可能です。
任意後見制度のデメリット
- 監督人が必要
任意後見契約を発効する際には、必ず家庭裁判所が任意後見監督人を選任しなければならないため、監督人への費用が発生します。 - 契約内容が限定的
任意後見契約の範囲は契約で決まるため、契約に記載されていないことについては後見人が対応できません。適切な契約内容を作成することが重要です。
任意後見制度が適しているケース
- 現在は判断能力が十分にあるが、将来認知症や病気などで判断能力が低下することが心配な方。
- 信頼できる人に、将来の財産管理や生活支援を任せたいと考えている方。
- 自分の意思を尊重した後見を希望し、計画的に老後を準備したい方。
- 対象:将来、判断能力が低下する可能性があるが、現時点では十分な判断能力がある人。
- 開始の時期:本人が判断能力を持っているうちに、自ら後見人を任意で選び、将来の判断能力低下に備えて契約を結びます。実際に任意後見契約が発動されるのは、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらった後です。
- 後見人の選任:本人が自らの意思で、信頼できる人を選んで契約を結びます。親族や友人、専門家(弁護士、司法書士など)と契約することができます。
- 後見人の権限:契約内容に基づいて、特定の範囲の業務(財産管理や生活支援など)を後見人に委任します。
- 監督機関:家庭裁判所が選任する任意後見監督人が、任意後見人の業務を監督します。
主な違いのまとめ
項目 | 成年後見 | 任意後見 |
---|---|---|
開始時期 | 判断能力低下後に開始 | 判断能力があるうちに契約し、低下後に開始 |
後見人の選任 | 家庭裁判所が後見人を選任 | 本人が自分で選んで契約を結ぶ |
後見人の権限 | 広範な財産管理・契約権限を持つ | 契約内容に基づき限定的 |
監督機関 | 家庭裁判所 | 家庭裁判所が選任した監督人 |
成年後見制度の利用率
成年後見制度は、判断能力が低下した人に対して法的に支援を行うため、2000年に施行されて以来、多くの人が利用しています。ただし、全体としてみると日本の高齢化社会の中で制度の利用が進んでいる一方で、十分に活用されているとは言い難い状況です。
- 家庭裁判所の統計によれば、成年後見制度の利用者数は年々増加傾向にあります。2020年時点では、約22万人が成年後見制度を利用していました。
- この制度の利用者の多くは、法定後見(後見人が家庭裁判所の決定により選任されるもの)を利用しています。
任意後見制度の利用率
任意後見制度は、本人がまだ判断能力があるうちに、自分で選んだ後見人と契約を結び、将来の判断能力低下に備える制度です。しかし、任意後見制度の利用率は成年後見制度に比べて低くなっています。
- 任意後見制度の利用は比較的少ないとされており、全体の成年後見制度利用者の中で、任意後見を選ぶ人はわずか数%程度とされています。具体的には、成年後見全体の利用者の中で数千人程度にとどまるとのデータがあります。
- 任意後見の低い利用率の理由として、将来の判断能力低下に備えるための準備が難しいことや、制度の認知度がまだ十分ではないことが挙げられます。
利用率が低い理由
- 認知度の低さ:任意後見制度は成年後見制度と比べて制度の認知度が低いため、必要な情報にアクセスできない人が多い。
- 準備の複雑さ:任意後見契約には公正証書が必要であり、将来的な後見契約に備えて手続きが煩雑であることも影響しています。
まとめ
成年後見と任意後見について書きました。制度としては普及して欲しいと願っていますが、介護保険制度と比べて、まだまだ普及できていません。これから介護・福祉業界も逼迫してくるはずなので、国がなんとか両輪の制度して上手にまとめていって欲しいところです。
また、法的な知識だけでなく、医療・介護・福祉の知識も必要なので、分からない所は行政でも社会福祉協議会でも士業でも良いので専門家に確認して下さい。